Message from the President 社長メッセージ

ステークホルダーの皆様へ

創業以来、継承してきた当社の存在意義

時代の変化に合わせて、社会に必要とされる製品を生み出してきた源泉「IBIDEN WAY」

 2022年度は、当社の創立110周年かつ前中期経営計画「To The Next Stage 110 Plan」の最終年度でした。当社事業を取り巻く全体環境としましては、経済活動の正常化に向けた動きが進んだ一方で、ロシアのウクライナ侵攻を発端としたエネルギー価格の高騰や欧米の金融引き締めに伴う急速な円安進行による各種資材価格の上昇など、当社を取り巻く環境は不透明かつ厳しい状況が継続しました。

 そのような状況の中、当社におきましては、急激な環境変化への対応に加えて、河間事業場、大野事業場の建設開始など、次の成長に向けた布石を打ってきました。結果として、連結全体では売上高、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益で、当社の過去最高の業績を更新するとともに、4期連続での増収増益となりました。

 創立110周年の節目を高い業績水準で迎えることができましたが、同時にこれまでの中期経営計画を振り返り、新しい中期経営計画の策定に向けた議論を進めてきました。それは業績を積み上げてきた理由だけでなく、当社が110年にわたって存続することができた理由を改めて見つめ直す機会となりました。

 当社の事業は、祖業である水力発電からはじまり、高度経済成長期に大きく成長を遂げた建材事業、1970年代以降にデジタル時代のニーズをいち早くつかみ、プラスチック製ICパッケージ基板の開発に成功した電子事業、環境問題への意識の高まりから自動車の排気系分野での製品に対する需要が伸びたセラミック事業が柱となっていきました。このように、時代によって事業ポートフォリオを入れ替えて当社が成長を続けてこられたのは、時代の変化を的確に捉え、培ってきたコア技術で果敢に挑戦し、新たな技術、製品を生み出してきたイビデンのDNAが、従業員一人ひとりに受け継がれているからに他なりません。水資源という地球環境の恵みを大切にし、従業員一人ひとりの創意と工夫を大切にして、豊かな社会に必要とされる製品を生み出し貢献してきた当社の考え方は、「私たちは、人と地球環境を大切にし、革新的な技術で、豊かな社会の発展に貢献します。」という企業理念であるIBIDEN WAYに集約されています。先人の方々が築き、磨き上げてきたこのIBIDEN WAYこそが、110年を超えて存続できた理由であると考えています。

 現在、デジタルトランスフォーメーション(DX)、および気候変動対策(GX)により大きな社会変革が起きつつあります。次の100年に向けて、私たちが大事にしてきた、時代のニーズや環境の変化を捉えて、必要な技術、製品を生み出し新たなステージへ挑戦していく考えは、これからも変わることはありません。

前中期経営計画の振り返りと課題認識

事業の選択と集中を進め、次の成長に向けて経営資源を最適に活用できる体制を構築

 前中期経営計画期間の2018~2022年度を振り返ると、前述のとおり、ロシアのウクライナ侵攻、COVID-19など社会環境は大きく変化しました。前中期経営計画の策定時は、電子事業においてはパソコン市場など既存領域のシェア維持と、IoTやAI、データセンター向けなど新領域での事業拡大をめざしてきました。CSP *1事業からの撤退や揖斐電電子(北京)の売却など、事業の選択と集中を進める一方で、データセンター向けの需要拡大に合わせて大型投資を実行し、ICパッケージ事業への経営資源の集中を進めてきました。セラミック事業においては、大型商用車向けの環境規制対応やFGM *2事業における半導体製造装置産業など、成長分野への経営資源集中を進め、新興国市場での排気系事業拡大をめざし、限りあるリソースを効果的に活用するためイビデンDPFフランスの清算、イビデンセラムの売却といった生産拠点の選択と集中を進めてきました。

 その結果、最終年度2022年度の連結売上高こそ前中期経営計画の目標である4,300億円に達することはできませんでしたが、連結営業利益率は、目標10.5%に対して実績として17.3%と、大きく上回ることができました。EBITDA率に関しても2018年度の12%から2022年度は30%となり、高機能ICパッケージ基板など高付加価値製品の拡大により稼ぐ力を着実に育てることができました。厳しい外部環境の中でも稼ぐ力が伸びている点においては一定の手応えを感じています。

 また、前中期経営計画からの残された課題として、特に重視しているのが、電子事業においては、ICパッケージ事業の拡大に向けて過去最大の投資を行っている2つの事業場、河間事業場と大野事業場の計画通りの建設による、サーバー向けを中心とした高付加価値製品のシェア拡大があります。セラミック事業においては、事業環境の変化に対応するためアジア(日本・中国)・欧州・北米の4拠点を活かした最適地生産を実現し、伸びる中国・新興国市場の需要を確実に取り込んでいく必要があります。

 さらに新規事業の拡大として、前中期経営計画でNEV*3領域、エレクトロニクス領域、新領域の3つの開発領域を絞り込み事業化を進めてきました。NEV領域では、電動車向け新製品の安定量産の実現に向け2023年4月よりNEV事業部を立上げ、事業拡大を進めています。そしてエレクトロニクス領域、新領域でも新規事業の構築に向け取り組んでいくことが課題だと捉えています。

 これらの課題を乗り越え、さらなる成長を支える基盤として、人財育成や従業員のウェルビーイングを重視した人的資本経営の実践、そして競争力強化のため、生産部門、機能部門両輪でのDXによる経営変革を進めていくことも重要な課題であると認識しています。


* 1 CSP:Chip Scale Package 主にスマートフォンなどに使用されるチップサイズの小型パッケージ基板

* 2 FGM:Fine Graphite Material/Machining 特殊炭素製品の製造・加工

* 3 NEV:New Energy Vehicle 電気自動車をはじめとする新エネルギー車

新しいステージに向けて「Moving on to our New Stage 115 Plan」を始動

新中期経営計画の柱となる"5つの力"を育て、競争力を強化

 当社は次の飛躍に向け、今年度より始動する5か年(2023~2027年度)の新たな中期経営計画「Moving on to our New Stage 115 Plan」(略称:MNS 115 Plan)を策定しました。新中期経営計画におきましては、5本の活動の柱(強化していく力)と製造業としての基盤活動を軸に、事業環境変化に対応し、持続可能な成長の実現に向けて全社グループ一丸となって取り組んでいきます。持続可能な成長の実現に向けての5本の活動の柱は、「事業の競争力強化"稼ぐ力"」「新規製品の事業化"伸ばす力"」「モノづくりの改革"継続する力"」「企業文化の改革"変える力"」「ESG経営の推進"永続する力"」です。

 「事業の競争力強化"稼ぐ力"」では既存の価値・ビジネスモデルを常態とせず、革新に挑戦するマインドを持ち続けることを第一に置いています。現状のビジネスモデルにとらわれず、高い競争力を維持する商品力と、相互に合意された確かなビジネスモデルを確立して、顧客とともに競争力の強化を実現していくことが重要です。

 大型投資を進めている電子事業を確実に成長させていくことは、競争力の強化に必要不可欠な要素です。電子事業においては、新中期経営計画の中で、河間事業場、大野事業場の稼働を想定しており、大幅な売り上げの増加を見込んでいます。足下ではパソコン需要の減速や高性能サーバーの大口ユーザーの投資抑制により、半導体需要の伸びが鈍化していますが、顧客とは将来を見据えてロードマップを共有し、それに合わせて計画を立てています。市場の変化が激しい電子事業ではありますが、事業環境変化によりロードマップの遅れや変更が生じることがあっても、既存事業場、新設事業場でフレキシブルに対応できる生産体制を構築することでリスク低減を図っていきます。

 セラミック事業においては、半導体の供給不足や先進国を中心とした乗用車市場の電動化・脱ディーゼルに向けた急激な流れが一定程度緩和されることが想定されますが、原材料費や欧州を中心としたエネルギー価格の高止まりといったリスク要因も依然として懸念されます。中国・インドなどの成長市場における販売力強化を図り、日本・中国・ハンガリー・メキシコの4拠点を活かした物流・コスト視点での最適地生産を継続することで、市場変化があっても利益を出し続ける事業基盤の構築をめざします。2022年度のセラミック事業の売上高は899億円でしたが、それを2025年度には1,000億円まで引き上げ、営業利益率も6.8%から10%への改善を見込み、稼げる体質への変革を進めていきます。

 次に「新規製品の事業化"伸ばす力"」として、電子、セラミックに続く新たな事業や新たな製品を生み出すため、市場変化、顧客ニーズ・利便性に基づく新製品を、独創性のあるビジネスモデルで事業化を進めていきます。現在、「エレクトロニクス領域」「NEV領域」「新領域」の3領域へリソースを投入し、未来の事業を育てる活動を展開していますが、次の事業の柱を育てるには、的確な事業戦略の立案、後戻りしない開発、シームレスな立上げが必要です。NEV領域に関しては事業部化により、製販技を集約することで、量産立上げと海外展開を加速させていきます。また新領域に関しては、関連会社も参画した新製品開発・新事業開発によるグループ連結での成長を実現していきます。

 また、新規製品や新規事業を生み出すため、顧客情報に加えて業界や市場などの情報も含めた総合的な判断ができるビジネスインテリジェンスを強化していくことが重要になります。変化の激しい時代において、あらゆるデータをさまざまな角度から分析・理解し、将来のシナリオを描き企業戦略を練り上げていくことで、事業化につなげていきます。

「一人ひとりが変革に挑戦」を合言葉にモノづくり、企業文化の改革を実現

 "稼ぐ力""伸ばす力"を最大限に発揮するため、それを支える基盤の強化として大事なのが「モノづくりの改革"継続する力"」と「企業文化の改革"変える力"」です。「モノづくりの改革"継続する力"」について、当社は、創業以来、数多くのモノづくりの改革を進め成長してきました。この力を持続させ、成長を続けるには、製造業としての確かな基盤、基礎体力が欠かせません。現場力の強化を目的に、One Factory化*4の構想のもと、国内外拠点の一体化経営を進め、データドリブン、メカニズム分析などのデジタル技術の活用によって、事業場や仕組みのスマート化などDXを推進し、生産性向上や若手社員への技能の伝承を図ることで、効率的で高い次元のモノづくり力を培っていきます。

 「企業文化の改革"変える力"」として、私たちがめざすのは、市場環境の変化を敏感に読み取り、目的意識を持った自立型人財を増やし、市場変化にフレキシブルに対応できる組織づくりです。特にイビデンの根幹となるモノづくりの現場においては、自ら考え工夫し、変革できる人財であるナレッジワーカーを育て、現場力を高めることが必要です。そのための基盤活動として、専門分野の教育をはじめ、必要に応じて学びなおすリカレント、新しいスキルを習得するリスリキングを通して人財教育・育成を進めています。

 人は成長し、より大きな価値を生み出す主体です。当社は人的資本経営として、経営と従業員の両面から実践を進めています。特に従業員のウェルビーイングの視点では、会社の成長を個人が実感し、個人の成長が会社に貢献する。そうしたサイクルを回すことで、個人がいきいきと活躍できる環境をめざしています。

 5つ目の柱として掲げているのが「ESG経営の推進"永続する力"」です。価値創造の礎となる基盤強化に加え、事業を通した社会課題への貢献は、当社が創業以来取り組んできた大きなテーマです。地球環境や社会が健全でなければ、企業の持続的な成長も望めません。当社の持続的な成長と同時に持続可能な社会の発展に貢献するうえで必要な"永続する力"を養うため、 社会の課題であるSDGsなどに対して、従業員一人ひとりが「自分たちの事業で何を成すべきか?」を理解し、行動に移すことが重要であると考えています。

 当社の技術や事業活動を通したSDGsへの貢献の一つとして「気候変動への対応、脱炭素社会への移行」があります。脱炭素社会への移行に向けた取り組みは、当社が成長するために必要不可欠な要素として対応を進めています。社内の体制として専門の全社推進部門であるGX推進部を設置し、事業部門と一体で低炭素での操業をめざし、生産技術の革新や設備改善を進めるとともに、再生可能エネルギーの利用拡大や新エネルギーの活用検討を進めています。さらには、自社だけでなくサプライチェーン全体の活動に向けて対策を検討しています。また電子市場を展望すると、データ処理能力の高度化とともに省エネ化のニーズも高まっており、今後もその傾向は強まると予想されます。当社の製品においてもそのニーズに応えるべく技術力の向上を図っていきます。

 当社はこれまでも革新的な技術で豊かな社会の発展に貢献することで成長してきました。これは当社のあるべき姿であり、これからも変わることはありません。私たちのビジネス、そして技術力の向上が持続可能な社会づくりへの貢献に直結しているという意識を持ち、これからも社会のニーズを捉えた事業展開を進めることで、さらなる企業成長をめざしていきます。


* 4 One Factory化:国内外の各生産拠点間の情報を一括で集約、共有し、一つの工場のように機動的に高い競争力と、世界中で安定した品質を構築・展開する体制をめざすこと

変化を常態として、競争力を高めながら新しいステージに挑戦

 当社は、新中期経営計画において、前中期経営計画の最終年度に達成した、過去最高の売上、営業利益の数値を上回ることを経営目標に掲げ、新しいステージに向けての歩みを始動いたしました。一方で、足下の半導体需要は、テレワークやオンライン教育の定着で高まったパソコン需要が一巡し、またデータセンターなどで使われる高性能サーバーの大口ユーザーの投資回復の遅れから伸びは鈍化しており、2023年度から2024年度にかけては、売上、利益ともに踊り場になるという予想を立てています。当社として想定していた局面であり、意思を持って臨み現場の改善の徹底を進めており、次の競争力強化に向けて取り組んでいます。市場回復のタイミングと需要の増加に合わせて、事業成長の軌道を描ける体制を整えていきます。

 新中期経営計画では、「変化が常態」ということを強く意識するようにしています。現状のビジネスモデルを大きく変化させることを恐れず、顧客や取引先、従業員とともに競争力を強化すること、これこそが私たちが大きな目標を達成するための近道であると確信しています。当社が現在までに育んできたIBIDEN WAYの精神に則り、環境変化に柔軟に対応し、この局面に挑んでいきます。

 当社におきましては、顧客や株主、従業員をはじめとするステークホルダーの皆様と、この想いを共有し、新しい価値を創造していく考えです。また現在は、成長に伴い生み出されたキャッシュから、継続的な成長に向けて投資を行っていますが、株主様への還元に対しても、成長投資と長期安定配当とのバランスを見ながら総合的に検討・判断していきます。これからもステークホルダーの皆様との対話を重ねながら、持続可能な社会の実現に向けた当社の新しいステージへの挑戦を全社グループ一丸となって取り組んでいきます。今後も、当社への変わらないご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

代表取締役社長
青木 武志