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ステークホルダーの皆様へ
社長就任3年目を迎えて
変革のDNAの継承と進化。「変わり続けること」により私たちの文化を変え、さらなる成長をめざします
私たちの目の前には、AIの進化がもたらす、かつてなく大きな成長の機会が全分野で広がっています。一方でこの変化と好機を確実に掴むためには、これまでと同じ仕事の進め方では到底足りない、という強い危機感もあります。大きなチャンスをものにするためには、現状に満足せず、私たち自身が変わっていかなければなりません。社長就任から2年を迎えた今、私が強くお伝えしたいことは、この変革への覚悟です。
この2年間、国内外の多くの現場に足を運び、社員と直接対話を重ねる中で、一人ひとりが持つ可能性と、現場が持つ底力を実感しました。同時に、その力がまだ十分に活用されていないという課題も痛感しています。「世界のあらゆるインフラを支え、必要とされる会社」をめざし、社員の皆さんが「働いてよかったと心から誇れる会社」になりたいと思っています。これを実現するために、いま変わるべきは私たち経営層も含めて、自身の仕事への向き合い方であり、その変革をまずは人財の視点から始めたいと考えています。
イビデングループには、変革のDNAが創業以来脈々と受け継がれています。地域経済の振興をめざす水力発電会社として創業し、その電力を礎に、電気化学工業に転身し、セラミック製品、そして電子部品へと、時代の要請に合わせて自らの事業を大胆に組み替えてきました。時代の変化を予見し、新たな価値の創造に果敢に挑戦するという積極性は、企業理念体系「イビデンウェイ」として受け継いできた私たちを支える行動精神の一つです。この行動精神が一部の人ではなく、社員一人ひとりの日々の行動で少しずつでも発揮されれば、組織全体として大きな力に変わっていきます。
文化を変える第一歩として、役職ではなく名前に「さん」付けで呼び合う取り組みを労使共同ではじめました。小さな一歩に見えるかもしれませんが、立場や肩書きを越えて誰もが率直に意見を交わせる風土にするという、明確な意思表示です。これまでにない新しいアイデアに対して、決して最初から否定をしない。誰かが出した新しいアイデアをまずは受け止め、互いに協力して挑戦を促す。たとえ失敗しても、その責任ではなく原因に目を向け、全員ですぐに次の一手を考えて即座にフォローできる体制を整える。こうした信頼しあえる上司・部下の関係と自由闊達な意見交換のできる企業文化こそが、価値を生み続けるための土台です。また社員の行動変容に向けた環境を整えるために、人事制度の改革をプロジェクトで取り組み、社員の行動やその成果に報いることができる基盤づくりも進めています。その上で私自身、そして役員がまず先頭に立ち、姿で示すことで、企業文化そのものを変えていくという想いを、全社に共有しています。
中期経営計画の進捗
AI需要の着実な取り込みとその他事業の貢献により、前年度を大きく上回る水準となりました
当社を取り巻くビジネス環境に目を向けますと、2025年度の世界経済は、米国の通商・金融政策の転換や為替・株式市場の変動、中国経済の停滞、さらには中東情勢をはじめとした地政学リスクの顕在化など、不安定な状況が続きました。
半導体・電子部品業界の市場では、パソコン市場は全体として力強さを欠く水準にとどまったものの、サーバー市場において、生成AI関連の成長領域が好調を維持するとともに、汎用サーバー向けの需要は、緩やかな成長基調で推移しました。
自動車業界の排気系部品市場は、米国の関税政策変更に端を発する世界的な景気先行きの不透明感を背景とした、グローバルでの自動車生産台数減少に伴い鈍化しました。
これらの市場環境変化を受け、AI向けを中心とした成長領域の受注に対応するため、大野事業場の量産を2025年10月より計画通り開始しました。また、今後さらなる需要拡大が見込まれる高機能ICパッケージ基板の生産能力増強を図る目的で、2026年度から2028年度の3ヶ年で、河間事業場および大野事業場を主要な対象とする総額5,000億円規模の投資計画を、2026年2月に決定しました。また、セラミック事業におきましても、将来のパワートレインの多様化に向けた布石として、2025年度より、NEV(EVバッテリー用安全部材)事業部を技術開発本部からセラミック事業本部へ移管しています。
その結果、2025年度の業績は、売上高4,162億円(前期比12.7%増)、営業利益620億円(同30.3%増)、経常利益608億円(同27.0%増)、親会社株主に帰属する当期純利益637億円(同89.0%増)と、前年度を大きく上回る水準となりました。
こうした中で、その他事業も売上高903億円(前期比2.5%増)、営業利益89億円(同3.0%増)と堅調に推移しています。その他事業は、当社の技術や過去の製品を受け継いだ事業で構成されています。建設や緑化からヘルスケアに至る多彩な事業を営む国内グループ各社が各々で強みを発揮し、事業競争力を活かした拡販活動に取り組んでいます。私は、連結経営での総合力こそ、市況の変化に揺るがない当社の底力だと考えています。
2026年度は、ハイエンド半導体市場の成長が続くとの見立てのもとで、売上高5,500億円(同32.1%増)、営業利益1,270億円(同104.8%増)という、高い成長角度での通期業績予想を策定しています。
2030年度に向けた成長戦略
従業員が最大限力を発揮できる環境を整え、成長投資を確実に実行することで、「売上高1兆円」の体制を整えます
2025年度までの確かな手応えを踏まえ、中期経営計画の業績目標を上方修正しています。計画の最終年度となる2027年度の目標を引き上げるとともに、その先の2030年度には、電子事業を軸に「売上高1兆円・営業利益3,000億円(営業利益率30%)」をめざす大きな目標を掲げました。
目標は、今までのやり方を続けていくだけでは達成できるものではないと考えています。2030年度に売上高2倍を目標とする一方で、人員数は現実的に1.2~1.3倍程度の増加に留まるだろうと見込んでいます。このような状況の中で、事業を成長させていくためには、全員が「本当に価値のある仕事は何か」を問い直し、価値ある業務に重きを置いていく必要があります。さらに、各階層に対して、大胆な権限委譲を行うことによって、責任ある人が責任ある判断をするための環境を整えていきます。人の力を最大限に引き出し、生産性を向上させることこそが、売上高1兆円を支える強固な土台になると考えています。
目標達成に向けた最優先課題は、成長投資の確実な実行です。2026年度から2028年度までの3ヶ年で、電子事業に総額約5,000億円という当社としては、史上最大規模の設備投資をやり切ります。その中核が、リニューアルした河間事業場の量産立ち上げと、2025年10月に量産を開始した大野事業場への追加投資です。河間事業場は、2023年に竣工していたものの、量産稼働に踏み切ることができない状況が続いていました。2025年度に入り、ハイパースケーラーが独自に開発するASICの需要が急速に伸びてきたため、ASIC向け製品に対応できる生産工場として立ち上げを進めていきます。大野事業場も順次稼働エリアを拡大していますが、現在は建屋内のスペース半分程度の活用に留まっており、AIサーバー向け製品の旺盛な需要に応えるべく、本投資により残り半分のスペースへ設備導入を進めていきます。また、部品内蔵やガラスコア、光電融合といった次世代・次々世代技術の開発に注力し、お客さまの一歩先を行く価値を提供することで、ハイエンド市場で確固たる地位を維持してまいります。
セラミック事業では、新興国の産業用車両向けDPF需要を着実に取り込むとともに、NEV事業の黒字化に向けて、海外顧客の開拓を加速しております。加えてFGM事業において、北米のデータセンター需要を背景に成長が見込まれる原子力発電分野など、自社の競争力が最大限に発揮できる市場向けに計画的な投資を実行します。さらに技術開発部門において、新事業領域の開拓を進めるため、ベンチャーキャピタルへの戦略的な出資や産学官連携によるオープンイノベーションを活かし、GX・バイオなどの分野で次なる収益の柱を育ててまいります。
人的資本経営の具体化
仕事のやり方を変えるのは「人」。育成・登用・技能伝承の仕組みを刷新し「自立型人財」を育てます
これらの成長戦略を実現する原動力は、すべて「人」にあります。私たちがめざす自立型人財とは、急激に変化する環境の中で、当事者意識を持ち自らやるべきことを考え、機敏に動ける人財のことです。その育成と活躍を支えるための環境整備の一環として、人事制度改革に取り組んでいます。人事制度は、個人が一番力を発揮できるための役割を明確にし、納得感のある報酬と処遇を実現すること、会社の成長と事業拡大に向けて、年齢、性別等に関わらず、多様な知識と経験を持った人財がともに働く制度にすることの2点をポイントに大胆に改革を進めています。2025年度は管理職・シニア職を対象に、役職定年の撤廃や専門キャリアコースの創設、シニア層の処遇の見直しを実行しました。2026年度は階層を拡大し、等級・報酬制度の抜本的な見直しに踏み込むことで、社員一人ひとりが働きがいと誇りを持って働くことができる環境を整備していきます。
モノづくりの視点では、デジタル全盛の時代であっても、設備と品質を知り抜き、改善・維持できる人財の価値を一段と高く見ています。生産部門にとどまらず全社のモノづくり教育を担う体制へと組織を再編し、青柳事業場の「モノづくり道場」で、意識・知識・知恵・技能の実践的な伝承を、AIとデジタル技術を駆使して加速していきます。また製造業である当社にとって、安全はすべての土台です。AIカメラによる不安全行動の監視などの仕組みも取り入れながら、安全第一で、社員が安心して働ける職場づくりを徹底していきます。
変化の時代に成長し事業拡大を実現するには、意思決定のスピードも欠かせません。部長やグループマネージャー層への権限を委譲し、責任ある人が、その場でスピード感を持って判断を下せる体制に変えていきます。管理職の役割を「判断すること」「変化を起こすこと」「人財を育成すること」の三つと定め、これを評価制度にも反映しています。また、競争力の起点は外の世界を知ることにあるとの考えから、一定の役職者が外部との交流をしやすくする取り組みを実施するとともに、社内のことをさらに知ってもらうための情報発信も拡充しています。
2026年度は上記に加えて、社員の行動変革を目的とした理念体系の再整理と、社員エンゲージメント向上のために声をあげる文化を形成するための施策を進めていきます。こうした取り組みを通じて、社員一人ひとりが失敗を恐れず、自分の想いや意見を自由に交わせる職場を実現します。そして、自ら行動し成長することが会社の成長につながる、働いてよかったと思える会社をめざしていきます。
財務戦略とガバナンス体制の強化
強靭さとしなやかさの追求。成長投資と財務規律の両立を確かなものにします
当社史上最大の投資を確実な企業価値へと結びつけるため、私たちは規律の徹底と、強靭かつしなやかな財務体質の構築を重視しています。成長投資は前受金を含む営業キャッシュ・フローの範囲内を基本とし、連結EBITDA※率30%以上、電子事業単体では40%台となる高いキャッシュ創出力を維持していきます。これに加えて、今後事業の競争力を正しく査定できるよう、資本コストを意識した管理指標の導入を検討していきます。なお、自己資本比率は前期の45.3%から57.2%へ大きく改善しており、引き続き60%以上への復元をめざします。
資本市場との対話を果断に実行に移した具体的な成果の一つが、政策保有株式の縮減です。当初「2027年度末までに2023年度末時価ベースで50%以上を縮減する」としていた目標を大幅に前倒しし、2025年度末時点で81%の縮減を達成しました。
事業規模の拡大にあたっては、ガバナンスの高度化も欠かせません。監査機能を社長直轄の独立した組織として強化するとともに、リスクマネジメントとコンプライアンスの機能を経営企画部門へ発展的に統合してERM(統合型リスクマネジメント)体制の構築に取り組んでいます。また、子会社の内部統制を監督する専任部署の新設等により、グループ全体でのガバナンス強化を進めます。
株主還元については、2030年度までは成長投資と財務規律のバランスを考慮しつつ、配当性向20%を目安とし、年間配当金を1株あたり20円をベースに累進配当とする方針としています。また、2026年1月には1株を2株とする株式分割を実施※しました。2025年度の年間配当は大野事業場の量産開始記念配当を含む30円とし、2026年度はさらに増配し35円(中間15円・期末20円)を見込んでいます。積極的な投資による成長と安定的な還元の最適なバランスにより、株主価値の向上に努めていきます。
※ EBITDA:営業利益+減価償却費
※ 2026年10月1日付で普通株式1株につき2株の割合をもって株式分割を行います。なお、文中に記載している配当金の金額については、当該分割を反映していません。
ステークホルダーへのメッセージ
「フェア」の精神を礎に、すべてのステークホルダーとの健全なパートナーシップで次の100年を創ります
私たちの歩みは、創業の地である岐阜・大垣をはじめとする地域社会に支えられて今日まで続いてきました。地域に恵みをもたらす揖斐川上流域の「イビデンの森」の保全活動を続けるとともに、災害時には事業場の敷地や専用水道の使用に協力する協定を自治体と結ぶなど、地域との共存を大切にしています。また、持続可能な社会の実現に向けて、「環境ビジョン2050」に掲げる温室効果ガス排出量の削減など、事業の成長と地球環境保護の両立にも取り組んでいます。
ブランドメッセージ「ともに歩む、その先の革新へ」が掲げる「ともに歩む」相手は、私たちイビデングループが大切にし続けてきた、従業員、顧客、そして取引先をはじめとする関係するすべてのステークホルダーの皆さまです。従業員がいきいきと挑戦できる環境を整え、お客さまには期待の一歩先を行く価値を届け、協力会社とは対等な信頼関係を築く。その根底にあるのは、互いに誠実に応え合う「フェア」の精神です。一時の損得にとらわれず、相手に対して公正であり続けることこそが、長きにわたる信頼関係を育む礎になると、私は考えています。
2025年11月に当社は日経平均株価を構成する225銘柄に採用されました。東証プライム市場の1,600社を超える企業の中から、日本を代表する一社として選ばれたことを誇りに思うとともに、その社会的責任の重さを、改めて身の引き締まる思いで受け止めています。
この歩みを支えてくださったすべての皆さまに、心より御礼申し上げます。一人ひとりの力を信じ、ステークホルダーの皆さまとともに歩むことで、私たちはその先の革新へと向かってまいります。今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
代表取締役社長
河島 浩二