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ステークホルダーの皆様へ
代表取締役就任にあたり
先人たちの積み上げた強みを継続しさらなる成長に向けて企業文化の変革を進めます
2024年6月に代表取締役社長に就任いたしました河島浩二です。社長就任について当時の青木社長(現会長)から打診があったのは、2023年12月でした。2023年当初は電子事業において大型投資を決定し、大野事業場と河間事業場の2つの新工場が同時建設中というタイミングでした。電子事業の責任者であった私は、この2つの工場の立上げ確実に実行することの重要性は認識していましたが、社長という立場でこの新工場の立上げはもちろんの事、イビデン全体を舵取りしていくという仕事を全うする責任の重さや不安を感じつつも、迷いを捨てて「自分がやってみよう」と決心した次第です。
私は、大学卒業後すぐにイビデンに就職し、30年を超える社歴の中で多くは電子事業に携わってきました。特に印象深いのは、ICパッケージ基板の初量産となる世界最大手の半導体メーカーとの仕事が決まった時です。米国で技術営業を担当していた私は、この大手半導体メーカーの開発部隊があるアリゾナ州に事務所を開設し、製品立上げのサポートを行いました。とにかく多くの問題が発生しましたが、ひとつずつチーム全員でそれらを解決していき、苦労の末に立上がった時の達成感は今も覚えています。当時のICパッケージ基板はセラミックが主体でしたが、電気特性や小型化などの技術的な課題を抱えており、この受注がセラミックからプラスチックに切り替わるきっかけとなって、ICパッケージ業界全体がダイナミックに成長していく過程を経験してきました。
当社は創業から現在まで、さまざまな形に主力事業を変化させ成長してきましたが、根本にある強みは世界トッ プのお客様の要望を実現する開発力、その実績を通じて長年積み上げてきたお客様との信頼関係だと考えています。その強みに甘んじることなく、歴代の社長や先輩方が築いてきた文化を引き継ぎつつ、新たな文化を築いていきたいと考えています。製品を開発していく過程では、お客様と将来のロードマップを共有させていただき、その実現はもちろんの事、さらにお客様に価値を提供し続けられるよう、「One Generation Ahead(一世代先へ)」を合言葉に、最先端技術を見越した対応ができる開発体制を整備し、提案型の開発ができるよう進めていきます。既存技術やその製品群の拡大においても、市場の変化に素早く対応するため今までの常識から脱却し、待ち受け型から能動型提案のできる会社にしていきたいと思います。自分たちで積極的に進める開発力、異常があればすぐに情報が上がってくる風通しの良さ、すべての従業員が意見を言い合える会社文化、これらを今まで以上に磨きをかけ、変化の激しい社会における競争力を高めていきたいと考えています。
中期経営計画1年目の振り返り
変化する事業環境に対応するため、新工場の立上げ時期の見直しなど対応を進めた一年でした
2023年度の当社事業を取り巻く全体の環境としましては、世界経済は総じて回復基調にありましたが、世界的 な金融引締めによる影響や中国における経済成長の鈍化に加え、地政学リスクの継続、国内での物価上昇など、不透明かつ不安定な状況が継続しました。
半導体・電子部品業界の市場は、パソコン市場においては、2022年度後半からの需要急減速に伴う在庫調整は一巡したものの、回復に向けた動きは想定よりも緩やかに推移しており、不透明な状況が継続しています。サーバー市場においては、生成AI関連を中心とした新たな成長領域は好調に推移したものの、既存のデータセンター向けサーバー市場は、大口ユーザーによる投資抑制と在庫調整が継続し、電子事業全体として厳しい市況となりました。
自動車業界の排気系部品市場は、世界的な半導体不足およびCOVID-19を発端としたサプライチェーンの混乱 による影響からの回復が進みましたが、中国国内の景気減速に伴い、グローバルでの自動車生産台数の伸びは、期初予想対比で鈍化しました。
このような情勢のもと、電子事業においては、顧客・用途の多様性と生成AIを軸とした中長期の需要拡大を見込 み、2025年度に大野事業場、2026年度に河間事業場を立上げるよう計画の見直しを行いました。半導体市場の変化と成長に合わせて高いシェアを維持・拡大するための対応であり、中期的に高機能ICパッケージ基板の生産能力の増強が必要になるという見方に変化はありません。
セラミック事業においては、世界的な自動車市場の回復という好材料に加え、大型商用車向け製品への受注シフトと生産体制の最適化を進めています。加えて、エネルギー価格や調達コスト上昇に対して、お客様との合意に基づいた適切な価格を設定出来たこともあり、収益は改善傾向にあります。また、グラファイト製品(FGM)については、Si半導体に加えてSiCパワー半導体向け製品が堅調に推移し、事業全体としては前年に比べて売上、利益ともに増加しました。
電子事業・セラミック事業ともに市場環境の変化への対応を進めましたが、2023年度は結果として連結全体では売上高3,705億円、営業利益475億円、経常利益511億円、親会社株主に帰属する当期純利益314億円となり、前年対比で減収減益となりました。
中期経営計画における重点的な取組み
大野事業場と河間事業場の並行立上げやOne Factory構想の実現に向けて
2023年度は厳しい結果となりましたが、我々がめざす将来像に変わりはありません。当社は長い歴史のなかで「幾多の困難を全員で乗り越え、イビデンを存続させてきた力」と「近年の飛躍的な成長を実現させた英知と活力」を育んできました。これらを世代や国籍を超えて受け継がれるように体系化した「イビデンウェイ」(P05)を改めて胸に刻み、厳しい局面にあっても全員の力を結集して乗り越え、持続的な事業の成長に挑み続ける覚悟です。直近の目標である中期経営計画では、2027年度において売上高6,500億円、営業利益1,150億円を掲げています。
その目標に向けての最重要課題は、大野事業場と河間事業場の並行立上げです。今後、大野事業場の立上げから連続して河間事業場の立上げに入ります。ICパッケージ基板の需要増加を見据えた当社史上最大の投資を確実に成果に繋げるため、優先的に経営資源を集中させたいと考えています。貴重な機会であるこの大型投資をやり切ることは、会社の発展のみならず従業員の成長と自信にも繋がるものと考えています。
また、厳しさを増す事業環境に対応し、事業の足腰を鍛え直すために、2024年度にはOne Factory構想という新しい試みをスタートさせています。One Factory構想とは、国内外の各拠点の運営・管理・しくみを統一していくこと、そして各拠点の情報をデジタル技術により、一括で集約・共用・活用することで、全拠点を大きな一つの工場と見立てて、安定した品質・生産を可能にする体制のことです。各拠点がリアルタイムに連携することで、改善策や手法、新技術を同時展開する一体的な運営をめざしています。今回の構想では2025年度に稼働する大野事業場をモデル拠点と位置付けて、デジタル技術を駆使した生産技術、生産体制の整備を進めていきます。
大野事業場と河間事業場の並行立上げやOne Factory構想など重要な施策を進める一方で、顧客との連携も深めています。半導体の技術革新が進む中、後工程におけるパッケージング技術の重要性が高まっており、当社の供給するICパッケージ基板においてもより高度な技術が求められています。主要顧客とは将来の技術ロードマップを共有しそれに応える開発を進めるとともに、大手の半導体ファウンドリーが主催する3次元実装の共同開発アライアンス、そして次々世代の技術である光電融合技術の構想への参画を行っています。こうした共同開発を進めることにより、将来の技術動向を踏まえて全方位で新たな製品や技術を生み出し続け、ICパッケージ基板のリーディングカンパニーとしての地位を確固たるものとし、さらなるシェア拡大や売上増加に繋げていきます。
セラミック事業における自動車排気系事業の市場については、足下では先進国を中心とした急激な乗用車市場 の電動化の流れからの揺り戻しが継続していますが、長期的には自動車の内燃機関における電動化の流れは不可逆的な流れです。内燃機関向けの製品においては、中期的に成長が見込まれる中国・新興国市場のトラックや建機などの産業用車両向けの需要を確実に取り込んでいく方針です。自動車向け以外に、特殊炭素製品においては、高速通信や産業機器分野においてSi半導体、SiCパワー半導体向けの需要拡大が見込まれる中、需要に応える生産体制を整え事業の拡大を進めていきます。
また、自動車の電動化の進展を睨んだセラミック事業の永続的な成長に向けて、NEV領域の研究開発を進めています。当社がこれまで培ってきた高温断熱材の製造技術を応用してEVバッテリー用安全部材の拡販を強化しています。NEV向けの新製品は、既に一部の大手自動車メーカーに採用されており、さらなる販売拡大に向けて、バッテリーの安全性の観点から様々な視点で新製品の研究開発を進めています。2027年度にはNEV領域の売上高として100億円をめざします。
さらに、持続的な社会の発展への貢献と事業のさらなる成長に向けて、社会課題の解決に資する新たな技術を生み出すため、産学連携に関する包括協定を結んだ東海国立大学機構の岐阜大学との連携を進めています。当社の事業活動から得られたコア技術と岐阜大学の教育研究資源を活用し、GX関連やバイオマテリアル、資源リサイクルなどの研究を進めています。当社は企業理念の中にも、人と地球環境を大切にすることを掲げており、今後も事業活動を通じて地球環境に貢献する脱炭素技術などの開発を進め、持続可能な社会へ貢献していきます。
イビデンの根幹を支える「人づくり」と「モノづくり」
今まで築いてきたイビデンの文化を継承しつつ、自立型人財を育成します
中長期的な成長をめざす上で、競争力の強化を支える人的資本経営の実践が不可欠となります。人は成長し、事業競争力の源泉となり、より大きな価値を生み出す主体です。そのことをより強く認識し、「人づくり」を推進していく考えです。中期経営計画の中で「企業文化の改革」を柱の一つに置いており、市場環境の変化を敏感に読み取り、目的意識を持った自立型人財の育成に注力していきます。目的意識を持った自立型人財を形成するためには、上から下まで風通しの良いコミュニケーションが大事だと考えており、いくつかのアイデアを練っているところです。イビデンの社風として、従来から意見が言い合える風土は作られてきましたが、外部環境の変化が大きい現代においてよりスピーディに動くためには、風通しの良さを高める必要性があると感じています。また、新入社員や管理職など各レベルの人たちが自分の意見を安心して言えることも多様性だと考え、従業員との対話を行いながら、自由に意見を言い合える風土に向けた仕掛けを提案していきます
「人づくり」の課題の一つとして、匠人材の育成と技能伝承があります。先に述べたとおりOne Factory構想などのデジタル技術を活用したしくみづくりを進めていますが、これまでの当社を支えてきたベテラン技能者の知識や経験は当社の大きな財産です。新工場における設備については、既存設備の問題点を把握しているベテラン技能者も開発チームに加えるなど、その知識や経験を製造プロセスの設計やライン構築に反映できるよう検討しています。デジタル技術の活用と現場での知識や経験を若い世代に継承することで、効率的で高い次元の「モノづくり力」を培っていきます。
また、大野事業場や河間事業場といった新工場の立上げは、最重要プロジェクトとして、ヒト・モノ・カネとい った資本を最大限投下します。ヒトに関しては、その中でも根幹となる部分です。新工場立上げはもちろん重要ですが、その成功を通してそれに関わった従業員の成長も大切な要素であると思います。このような成功体験を通して会社の成長を個人が実感し、そして個人の成長が会社に貢献していく、そうしたサイクルを回すことで、個人がいきいきと活躍でき、「この会社で働いて良かった」と実感できる環境をめざします。
強固なガバナンス体制を基盤にさらなる成長を
スピーディな意思決定と執行により事業環境の変化を機敏に捉え、リスクと機会に適切な対応を
当社の主力事業である電子事業・セラミック事業は、事業環境の変化が激しく意思決定の遅れが競争力の低下を招く可能性があります。そのため、当社では環境変化を機敏に捉え、意思決定と執行のスピードアップが図れるよう、以前よりガバナンス体制の強化を進めてきました。2017年の監査等委員会設置会社への移行や、2020年の執行役員職の廃止による役員数の削減などはその一例です。電子事業における大型投資にしても、事業環境の変化を見据えた上で大野事業場の先行立上げを決定するなど、事業の成長に必要なリスクテイクの議論を行いながら素早い意思決定を行ってきました。今後も意思決定と執行のスピードアップを図りながらも、取締役会が当社の持続的な成長に向けた監督機能を十分に発揮できるような、より良いガバナンス体制の構築をめざしていきます。
これまで、変化への対応や競争力の強化を中心にお話しました。チャールズ・ダーウィンは、「最も強い者が生き残るのではない。最も賢い者が残るのでもない。唯一生き残るのは変化に対応できる者である」と唱えたと言われています。これは当社の歴史にも通ずる考え方です。水力発電からスタートした当社は、時代の変化に合わせて、世間の期待やニーズを技術で形にし、新たな事業を次々に生み出し110年以上事業を継続してきました。これからの新しい時代に向けても、環境変化に対応できるものが生き残っていくということをしっかりと意識し、先人たちが築いてきた良き文化に新たな風を取り入れながら、事業活動を行っていきます。ステークホルダーの皆様におかれましては、今後も当社への変わらないご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
代表取締役社長
河島 浩二