Top Message トップメッセージ
ステークホルダーの皆様へ
新しいイビデングループへの決意
変化の激しい時代に新たな価値を生み出すためさらなる企業文化の改革に挑戦します
2024年6月に代表取締役社長に就任してから、1年あまりが経過しました。AIの進化が牽引する半導体市場、そして大きな変革期にある自動車市場など、当社を取り巻く事業環境は、めまぐるしいスピードで変化しています。この激しい変化の中にあって、市場や顧客が求める要求の一歩先を見越し、私たち自身が次々と新しい価値を提案できる会社へと生まれ変わらなければ、この先、生き残ることは難しいと考えています。私は社長就任以来、その強い危機感を全従業員に伝え続けてきました。
この変革を成し遂げるには、従業員一人ひとりが自立した人財として目的意識を持って行動し、挑戦できる企業文化の醸成が不可欠です。私はまず、企業文化の改革に重きを置いて、「新しい時代のイビデングループ」の基盤づくりに着手しました。答えは常に現場 にあるといった考えのもと、この一年間、国内外のグループ会社を含めて多くの現場に足を運び、従業員と対話を重ねてきました。そこで聞こえてくる声に真摯に耳を傾ける中で、従業員の持つ高い可能性を再確認すると同時に、その力を最大限に解き放つためには、私たちが変えるべき仕組みや制度がまだ多く存在することも痛感しました。
1年目は、この対話を通じた課題を関係者と共有し、変革の方向性を定める「助走の期間」でした。そして社長2年目となる2025年度は、そこで得た気づきを具体的な制度や仕組みの見直しへとつなげる「実践の年」と位置づけています。企業文化の改革に向けた活動は緒に就いたばかりですが、従業員の皆さんと私の想いを直接伝え合う交流会をこれまで以上に開催するとともに、昨年以上にお客さまの元へ足を運びます。これらの一連の活動は、「革新」を生み出すための基盤づくりに他なりません。
中期経営計画2年目の振り返り
厳しい事業環境の中、生成AI関連の成長領域が好調に推移し、概ね前年度並みの業績を達成しました
「革新」への道筋をご説明する前に、まずは2024年度の業績を振り返りたいと思います。2024年度における世界経済は、総じて回復基調にはありましたが、欧米における政策金利動向や為替および株式市場の大きな変動、中国における経済成長の停滞、さらには米国の政策変更に伴う影響が一部で顕在化するなど、不安定な状況が継続しました。
半導体・電子部品業界の市場は、パソコン市場においては、新型コロナウイルス感染症の拡大によって発生した特需への反動減を主要因とした在庫調整は一巡しましたが、全体として回復は力強さに欠ける水準で推移し、サプライヤー間の価格競争が激化しました。サーバー市場においては、生成AI関連を中心とした成長領域は好調に推移した一方で、汎用サーバー市場は、大口ユーザーの投資水準に底打ち感は見られたものの、半導体メーカー間の競争環境の変化が続いています。
自動車業界の排気系部品市場は、中国国内の景気減速および世界的な景気停滞に加え、国内自動車メーカーのエンジン認証問題に伴い、グローバルでの自動車生産台数の伸びは鈍化しています。
これらの市場環境変化を受け、電子事業においては、採算性を重視した受注方針と合わせてAI向けを中心とした成長領域の受注に対応するため、既存工場における新たな顧客の認定と生産ラインの改造を進めました。また、将来の成長に向けた布石として、大野事業場の建設と立上げを進めるとともに、資産の価値を現状の受注水準に合わせるため、イビデンフィリピンおよび一部の国内工場において、固定資産の減損処理を実施しました。また、セラミック事業においては、新エネルギー車(NEV)向け新製品が立ち上がったことにより、2025年度よりNEV事業部として技術開発本部より事業移管しています。
このような変化の激しい環境の中ではありましたが、私たちは社会が必要とする先端分野で技術的優位性を最大限に発揮し、2024年度の業績は売上高3,694億円、営業利益476億円、経常利益478億円、親会社株主に帰属する当期純利益337億円となりました。概ね前年度並みの業績ですが、引き続き、事業環境の変化に確実に対応するとともに、安定した成長の実現に向けて、全社グループ一丸となって取り組んでいきます。
ブランドメッセージの策定
一人ひとりが目的意識を持って変化を恐れず行動できる自立型人財を育てます
現在の私たちの指針となる中期経営計画「Moving on to our New Stage 115 Plan」は2年目を終えました。2027年度における売上高6,000億円、2030年度における売上高 7,500億円を目標としています。特に2030年度の目標は2024年度の売上高と比べると倍近くとなり、非常にチャレンジングな目標です。
それをめざすにあたっては、従業員の意識を今以上に統一し、私たちが持つ価値観をより明確にする必要があると感じています。また、社外の皆さまにも当社グループの歴史や価値観を端的にお伝えし、ご理解いただくことが重要であると考えています。その一つの方策として、新たにブランドメッセージを策定しました。それが「ともに歩む、その先の革新へ(英文:A century of innovation, partnering for the future)」です。このメッセージには、地域経済の振興をめざして水力発電会社として創業し、地域社会とともに歩みながら、100年以上を歩んできたイビデンの歴史や、発電会社から電力を活用したモノづくりの会社へ転身し、その長い歴史の中で培ってきた技術を基盤に、時代のニーズを捉え、社会の課題解決に貢献する革新的な製品を生み出してきた技術開発型企業としての決意が込められています。さらに、地域社会や顧客、従業員、取引先といったステークホルダーの皆さまと確かなパートナーシップを築きながら、独自の技術革新を追求し、持続可能な社会の実現に貢献していく私たちの想いも込められています。
こうしたメッセージは策定するだけでは不十分であり、それを定着させることが必要不可欠です。そのためにも、一人ひとりが当社グループの価値観に共感し、行動できる、そうした企業文化に変えていくことが大事になってきます。2025年度を、企業文化の変革の実践の年にするためにも、まずは3つのことを大切にすることを、社内でお願いをしています。それは「従業員」「顧客」「関係する会社」です。
価値を生み出すために最も大切な「従業員」は、ただ働いてもらうのではなく、一人ひとりが目的意識を持って自立して行動できる人材、いわゆる自立型人財を育てることをめざしています。また、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの視点から、多様な価値観を持つ人たちがそれぞれの立場で、意見を自由に交わし合い、いきいきと活躍できる環境を築いていくことも重要です。
「顧客」に対しては、単に期待に応えるだけでなく、"One Generation Ahead"その一歩先を行く新しい価値を提案していきたいと考えています。「こんなものが欲しかった」と言っていただけるような、驚きや感動を提供することをめざしています。
そして、「関係する会社」である協力会社やサプライヤーの皆さまとの関係では、フェアな価値を共有することを基本としています。これはビジネスを進める上で欠かせない絶対条件だと考えています。お互いが対等な立場で信頼を築き、ともに成長していける関係を作ることが、私たちのめざす姿です。
企業文化を改革する上で、従業員に変化を求める以上、私自身も変化していく必要があると強く感じています。私自身がまず変えていきたい行動がニつあります。一つ目は、これまで以上に各現場に赴き、交流会などを開催し、従業員一人ひとりの話を聞き、私の想いを伝えること。二つ目は、これまで以上に、お客さまの所へ赴くことです。さまざまな交渉事や市場の変化がありますが、できるだけ直接顧客の声を聴き、顧客に会社の考えを届けることです。
私たちがめざしているのは「世界のあらゆるインフラを支え、必要とされる会社」であり、従業員が「働いて良かったと誇れる会社」です。中期経営計画の達成やブランドメッセージの定着など、私たちが成すべきことはたくさんありますが、「従業員」「顧客」「関 係する会社」の皆さまからイビデンを選んで良かったと思ってもらえることが理想です。この理想の会社を作り上げるためにできることは何か、全員で考え、協力して行動したいと考えています。
大野事業場の稼働開始
顧客からの要望に確実に応えつつ、さらなる進化が見込まれるICパッケージ基板の開発にも注力します
企業文化の改革は、中期経営計画の活動の5本柱としている「変える力」「継続する力」への挑戦です。目下、私たちが全力を挙げて進めているのが、活動5本柱の「伸ばす力」「永続する力」となる新工場・新製品の立上げです。現在、当社の成長を牽引しているのは電子事業です。先ほどもご説明しましたが、現在の電子事業の状況としては、AIサーバー向けが好調に推移する一方で、汎用サーバー向けは在庫調整の影響から回復が想定より緩やかとなり、またパソコン向けは価格競争の激化を受けて厳しい状況が続くなど、大きく変化した一年でした。この汎用サーバー・パソコン向けの苦戦を、AIサーバー向けの力強い成長がカバーした形です。特にAIサーバー向けに限れば、売上高は前年度に比べ大きく伸び、当社の生産ラインはフル稼働が続いています。今後、さらにその成長を加速させるのが、2025年度下期に本格量産稼働、出荷を開始する大野事業場です。AIサーバー向けを中心とする最先端のICパッケージ基板においては、顧客とロードマップを共有し強固な関係を築いています。顧客からの要望は引き続き旺盛であり、この期待に応えることが我々の最優先課題です。この要望に応えることにより、電子事業の売上高について、2027年度に2023年度の約2倍となる3,800億円をめざします。
今後の成長に大きく寄与する大野事業場は、「One Factory構想」を掲げ、デジタル技術を駆使した生産技術、生産体制のモデル拠点として運用しています。国内外の各拠点の管理・仕組みを統一し、その情報を集約・共用・活用することで、全拠点を大きな一つの工場と見立て、既存工場を含む生産能力をフレキシブルに活用し、高付加価値品の受注最大化を図っていきます。
AIサーバー向けのGPUなど製品の世代交代により基板の大型化・多層化が進み、SAP※キャパシティへの負荷は高くなります。また、AIサーバー向けに限らず、ICパッケージ基板の進化は留まることを知りません。大型化・多層化への対応に加え、必要となる要素技術の先行開発を順次進めつつ、ASIC(ハイパースケーラーの独自チップ)への参入も視野に、ICパッケージ基板の進化と開発に取り組んでいきます。
※SAP:Semi Additive Process
モノづくり企業として基盤を強化
競争力の源泉である人財強化のため意識・知識・知恵・技能の伝承を進め「モノづくり人財」を育成します
イビデンの110余年の歴史を振り返る時、その根幹には常に、社会の変化に対応し、新しい価値を創造してきた「人」と「モノづくり」の精神がありました。技術がどれほど進化しようとも、その本質は決して変わりません。私たちの競争力の源泉は、今も、そして未来も、すべて「人」にあります。会社の未来を創るのは、従業員一人ひとりの、大小さまざまな挑戦に他なりません。
この信念のもと、私たちはモノづくり人財の育成を目的に、2025年度に「モノづくり道場」を開設しました。モノづくり人財とは、設備と品質に精通し、それらを改善、維持できる人財です。モノづくり道場では、意識・知識・知恵・技能の伝承を目的に、製造 現場で実際に使用する設備や部品を使い、組立、加工などの実践的な教育を展開しています。また、巻き込まれや感電といった危険を認識するための安全体感装置を設置し、安全・危険予知を幅広く学ぶ場としても活用しています。これにより、イビデンならではの卓越した現場力を、次の100年を支える強固な基盤として築き上げていきます。
変革を力にさらなる成長をめざす
事業環境に合わせて変革してきたイビデンのDNAを最大限に活かして企業価値の向上に全力で挑みます
2025年度以降の事業環境は、依然として先行き不透明な状況が続くと予想されます。しかし、私たちは、110余年の歴史を通じて幾多の困難を乗り越え、変化を成長の力に変えてきた変革のDNAを持っています。このDNAこそが、私たちの最大の強みです。「Moving on to our New Stage 115 Plan」の後半に向け、私たちは成長へのアクセルをさらに踏み込んでいきます。長期的な視点に立ち、競争が激化するであろうAI市場を見据え、拡張の余地を大きく残す大野事業場と、それに続く河間事業場の活用計画を具体化させていきます。もちろん、河間事業場の本格稼働時期のように、お客さまの需要動向を慎重に見極めねばならない不透明な要素もあります。しかし、私たちは一時的な市場の変化で戦略の機軸を安易にぶれさせることなく、将来の事業成長に向けて着実に布石を打っていきます。
資本配分については、株主価値の向上に向け、ROEや自己資本比率といった財務目標へのコミットメントも堅持し、早期に達成できるよう成長投資と株主還元の最適なバランスを追求し続けます。また、政策保有株式については、2027年度末までに2023年度末時価ベース対比で50%以上縮減する方針としています。成長投資は営業キャッシュフロー以内を基本とし、財務体質の改善・強化を図ります。
投資家の皆さまとの対話にも一層力を入れるべく、2025年度から新たに、経営企画部内にIRグループを設置しました。IR担当役員やトップ面談を含めたIR活動を強化することにより市場の声を確実に取締役と従業員に届け、経営に反映することで企業価値の向上をめざします。
最後になりますが、当社の事業活動を日頃よりお支えいただいている地域の皆さまをはじめ、顧客、取引先、株主の皆さまに心より御礼申し上げます。また、世界中の拠点で日々奮闘してくれている従業員とそのご家族にも、深く感謝いたします。皆さまの期待に応え、社会から「誇れる、必要とされる会社」であり続けるよう、企業価値のさらなる向上に全力を尽くす所存です。今後とも変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
代表取締役社長
河島 浩二